前回の記事で、2025年の買ってよかったもの第1位としてご紹介した「ロエベ フェザーライト パズルバッグ」。実は、ラージサイズとスモールサイズの2点を購入したとお伝えしましたが、今回はその経緯について詳しくお話ししたいと思います。
まずは、スモールサイズを手に入れた時のこと。今思い返しても、あれは本当に奇跡のような出来事でした。
ジョナサン・アンダーソン移籍のニュースが背中を押した
ロエベのパズルバッグは、以前からずっと欲しいと思っていたアイテムでした。その独特のフォルム、柔らかなレザーの質感、そして何より、持つ人によって表情を変える自由さに惹かれていました。
しかし、高額なこともあり、なかなか購入に踏み切れずにいました。
そんな時、ジョナサン・アンダーソンがロエベを離れるというニュースが飛び込んできました。2013年にクリエイティブ・ディレクターに就任して以来、ロエベを革新的なブランドへと導いてきた彼。パズルバッグをはじめ、数々の名作を生み出してきた張本人です。
「買うなら今しかない」
そう思った瞬間、長年の迷いが吹き飛びました。ジョナサン・アンダーソンがロエベで手掛ける最後のコレクションになるかもしれない。そんな思いが、私の背中を強く押したのです。
新宿伊勢丹へ、一縷の望みを抱いて
決意を固めた私は、すぐに新宿伊勢丹へ向かいました。
ロエベのフロアに到着し、店員さんに「フェザーライト パズルバッグのスモールサイズはありますか?」と尋ねました。
店員さんは申し訳なさそうに答えました。
「申し訳ございません。現在、フロアに出ているものしかございません。フェザーライトは大変人気で、すぐに完売してしまうんです」
やはり、そう簡単には手に入らないか……。
一瞬、諦めかけました。しかし、せっかくここまで来たのだからと、店員さんとパズルバッグについて話を続けました。フェザーライトの魅力、通常のパズルバッグとの違い、どんなシーンで使いたいか。私の熱意が自然と言葉になっていきました。
「どの色がご希望ですか?」突然の質問
話を聞いていた店員さんが、ふと尋ねました。
「ちなみに、どの色がご希望ですか?」
「黒です」
即答しました。ブラックは、どんなスタイルにも合わせやすく、長く愛用できる定番カラー。フェザーライトの柔らかなレザーが、ブラックでどう表現されるのかも見てみたかったのです。
すると、店員さんは「少々お待ちください」と言って、バックヤードへと消えていきました。
この展開は……もしかして?
期待と不安が入り混じった数分間。心臓の鼓動が早くなるのを感じました。
奇跡の再会 – 午前中のキャンセルがバックヤードに
そして、店員さんが戻ってきました。
その手には、黒いフェザーライト パズルバッグ(スモール)が。
「実は、午前中にキャンセルが出まして、バックヤードに1点だけございました」
信じられない展開でした。午前中にキャンセルが発生していたものの、すぐに次のお客様へご案内することなく、バックヤードで控えられていたとのこと。そのタイミングで、私が訪れたのです。
しかし、店員さんは続けました。
「他にもお待ちいただいているお客様がいらっしゃるのですが……先ほどお話を伺っていて、本当にパズルバッグを愛してくださる方だと感じました。ぜひ、お客様に持っていただきたいと思いまして」
その言葉を聞いた時、胸が熱くなりました。
私の熱意が、店員さんの心を動かしたのです。単に「欲しい」と言うだけでなく、なぜ欲しいのか、どんな思いでここに来たのか。そうした会話の積み重ねが、この奇跡的な出会いを生んだのだと思います。
手にした瞬間の感動
実際に手に取ってみると、その軽さに驚きました。
「羽のように軽い」というキャッチフレーズは、決して誇張ではありませんでした。ナパラムスキンという革新的な素材は、しなやかでありながら、確かな存在感を放っています。
パズルバッグ特有の複雑な構造も、フェザーライトではより柔らかく、優しい印象に。カチッとしたハードなパズルバッグも魅力的ですが、このくたっとした質感は、また違った大人のエレガンスを感じさせてくれます。
ジョナサン・アンダーソンの美学 – 「使い込まれた美しさ」
会計を待つ間、店員さんが興味深い話をしてくださいました。
「ジョナサン・アンダーソンは、綺麗な新品の状態ではなく、使い込まれたものの形に美しさがあると考えているんです」
その言葉に、ハッとしました。
店員さんによると、ロエベの公式写真では、わざわざバッグの中央を潰して撮影しているそうです。それは、使い込まれると自然と中央が潰れてくることに由来しているとのこと。新品のピンと張った状態ではなく、使い手に馴染んだ、少しくたっとした形こそが、パズルバッグの本当の美しさだという哲学の表れなのだそうです。
さらに、フェザーライトに関しては、その軽さを訴求するために、片方が潰れた状態で写真が撮られているとも教えていただきました。

実際に公式サイトの写真を見てみると、確かにその通りでした。左の写真では中央部分が柔らかく沈み込み、右の写真では片側がくたっと潰れた状態で撮影されています。これがまさに、ジョナサン・アンダーソンの考える「使い込まれた美しさ」なのでしょう。
この話を聞いて、ジョナサン・アンダーソンのデザインに対する深い思想を垣間見た気がしました。完璧に整った新品の状態ではなく、人が使い、生活の中で形を変えていく過程にこそ美しさがある。そんな「不完全さの美学」が、ロエベというブランドには息づいているのです。
実際、ロエベのデザイン哲学には「perfectly imperfect(完璧な不完全さ)」という考え方があり、アンダーソンは完璧さを拒否し、使い込まれたレザーや経年変化を意図的にデザインに取り入れてきました。
だからこそ、このフェザーライトも、使い込むほどに自分らしい形に変化していくのでしょう。それは劣化ではなく、育てていく喜び。所有者との対話を重ねながら、唯一無二の存在になっていくのです。
会計を済ませ、大切にバッグを抱えて伊勢丹を後にしました。
新宿の街を歩きながら、何度も袋の中を確認してしまいました。本当に私の手元にあるのだと、実感が湧かなかったのです。
「熱意」が運命を引き寄せた
この経験を通じて、改めて感じたことがあります。
それは、「本当に欲しいものには、熱意を持って向き合うべき」ということです。
もし、店員さんに「ありません」と言われた時点で諦めていたら。もし、パズルバッグへの思いを語らずに黙って帰っていたら。この出会いは訪れなかったでしょう。
人気商品で入手困難だからこそ、自分の思いを言葉にすることが大切なのだと実感しました。店員さんも人間です。本当にそのアイテムを愛してくれる人に届けたいと思うのは、自然なことなのかもしれません。
そして、もう1つのパズルバッグへ……
スモールサイズのフェザーライト パズルバッグを手に入れた喜びは、言葉にできないほどでした。
しかし、この物語はここで終わりません。
実は、その後、ラージサイズも購入することになるのです。なぜ2つ目を買うことになったのか、そのお話はまた次回にさせていただきます。
パズルバッグとの出会いは、私にとって単なる買い物以上の意味を持つ出来事となりました。ジョナサン・アンダーソンの「使い込まれた美しさ」という哲学を知り、このバッグを育てていく楽しみがより一層深まりました。
彼の最後の傑作を手にできた幸運に、今も感謝しています。

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