前回のブログに続き、ジョナサン・アンダーソンの功績について分析をしていきたいと思います。
ジョナサン・アンダーソンが服に落とし込むポストジェンダーに関してまとめてみましたが、必ずしも優れた思想が売り上げにつながるとは考えられません。
今回のブログでは、思想の上にある、売り上げにつながる人を引き付ける魅力をPuzzleバックを取りあげて考えてみたいと思います。
このバッグは、単なる人気アイテムではありません。アンダーソンの思想が、もっとも広く・もっとも実用的なかたちで結晶化した存在といっても過言ではないでしょう。
語らずに表れるユニバーサル・デザイン
Puzzleバッグは、初めて登場した2015年から、メンズ・レディース問わず、サイズと色を変えて展開されてきました。
しかし注目すべきは、その構造です。
- 幾何学的に組み合わされたレザーのパーツ
- 丸みと直線の同居する中性的なフォルム
- 装飾に依存しないミニマルなディテール
つまり、“男性的”でも“女性的”でもない、構造的な中立性を持っているのです。しかもそれを「ユニセックスです」と宣言せず、あくまでデザインとして提示する静けさ。
そこには、「語ることで意味を固定化しない」アンダーソンの哲学がはっきりと表れています。
サイズの自由=役割からの解放
Puzzleはナノ、スモール、ミディアム、ラージと複数のサイズを持ちますが、サイズが変わってもデザインの本質は変わりません。
この点も、従来のファッションが抱えていた「サイズ=性別/役割」という前提を自然に崩す試みといえるでしょう。
- 大きなバッグだから“男性的”
- 小さなバッグだから“女性的”
こうした美的規範を、Puzzleはそもそも意味のないものとして提示しています。サイズは“誰が何を持つか”ではなく、“何を持ちたいか”で選ばれる──その自由な構造そのものが、ポスト・ジェンダーの思想を内包した設計なのです。
売れる思想は、静かで構造的である
Puzzleバッグが象徴しているのは、「思想と売上は両立しない」という古い前提への答えです。
このバッグには、アンダーソンの“語らない思想”が明確に織り込まれていますが、それを明示的に主張することはありません。
それでも多くの人がこのバッグに惹かれるのは、構造の中に思想が息づいているからに他なりません。
このようにして、アンダーソンは思想を語ることなく、誰もが自然に手に取る“ジェンダー・ニュートラルな日用品”としてPuzzleを成立させました。
そのさりげなさこそが、ポスト・ジェンダー時代のプロダクトの理想形であるといえるでしょう。
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